東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1306号 判決
右家屋の一部の転貸借について、被控訴人の承諾のあつたことについては、これを認めるに足りる証拠はない。もつとも成立に争のない乙第一号証の一ないし三十七並びに前掲控訴人本人の供述によれば、控訴人が本件家屋に対する昭和二十三年五月分から昭和二十六年八月分まで(ただし同二十三年十二月分、同二十四年五月及び十月分を除く)一箇月金千五百円の賃料を、右家屋の差配人である訴外山田三郎に支払つたこと、昭和二十三年九月分以降の右賃料領収書(乙第一号証の五ないし三十七)の宛名が控訴人小松賢三名義となつていることが認められるけれども、前掲証人小松きの江、原審及び当審証人山田三郎の各証言を総合すれば、訴外山田三郎は控訴人から右賃料を受領した当時、控訴人が訴外きの江方に同居していることを熟知しており、かつ控訴人が同七月分の賃料を持参した際、領収書の宛名を控訴人名義にして貰いたいというので、訴外山田三郎はその理由を尋ねたが、同人は判然したことをいわないので、その後訴外きの江にそのことを話したところ、同訴外人は控訴人が持参したときは控訴人名義にしてもよいとの返事であつたので、同年九月分以降は控訴人が賃料を持参したときは領収証を右のように控訴人名義としたに過ぎないものであることが認められるから、右乙第一号証の一ないし三十七及び右控訴人本人の供述によつても、被控訴人が前記転貸借を承諾したという事実を認めるに足りない。なお控訴人もしくは訴外きの江より被控訴人もしくは訴外山田三郎(同差配人が被控訴人のために転貸借を承諾する権限があつたか否かはしばらくおく)に対し、前記転貸借の事実を通告したが、または被控訴人もしくは訴外山田三郎において右転貸借の事実を了知していたことについては、これを認めるに足りる証拠なく、しかも同居の承諾と転貸借の承諾とはその法律上の効力を異にするから、(たとえば家屋の賃貸借の合意解除または解約申入の場合において、同居者はたとえ賃貸人の承諾を得ていても当然同居する権利を失うけれども賃貸人の承諾を得た転借人は当然にはその権利を失うことがないというが如き。)同居について賃貸人の承諾があつたとしても、その後に成立した賃貸人と同居人との間の転貸借について、さきの同居の承諾をもつて転貸借の黙示の承諾とは解することができない。これを本件について見れば、控訴人が訴外きの江方に同居するについて被控訴人の黙示または明示の承諾があつたとしても、右承諾をもつて右両名間の前記転貸借についての黙示の承諾とは解しえないから、控訴人の右抗弁は理由がない、